分かりやすい日本囲碁規約(試案)
2012年10月

II 分かりやすい日本囲碁規約(試案)逐条解説


 
第一条



第一条(対局)
 囲碁は、縦横十九路の盤を使用する競技であり、歴史を有する文化である。 その盤上で技芸を競うことを「対局」という。
2、十九路盤以外の盤もある。

<解説>
 囲碁は知能的競技であり、永い歴史と伝統を有する文化でもある。標準は十九路盤が使われ、 その他に十三、九路盤があり、将来は二十一路盤等を使用することも可能である。



 
第二条



第二条(着手)
 対局者は、一方が黒石、他方が白石を持ち、交互に一子ずつ交点に打つ。
2、着手放棄(パス)をすることができる。
3、通常、対局は黒の先着で始まる。置碁の場合は黒の置石を置いた後、白の先着とする。

<解説>
 交互着手は権利である。

  【一局の始まり】



 
第三条



第三条(取り)
 一方の着手により、相手方の石に隣接するすべての交点が埋め尽くされた場合は、相手方のその石を取り上げる。石を取り上げた時点をもって着手の完了とする。取り上げた石を「ハマ」という。

<解説>
 直線に隣接する同色の石は、分割できない一つの共同体となる。


黒1で白一子を取る     黒1で白二子を取る



 
第四条



第四条(禁着)
 相手方に取り上げられる状態の着手を打つことはできない。

<解説>

黒は、上辺の三つの△の空点をいずれも打つことはできない。
下辺の□の空点は白の石を先に取るため打つことはできる。  



 
第五条



第五条(劫)
 交互に石一子を取り返し得る形を「劫」という。劫を取られた方は、次の手番でその劫を取り返すことはできない。

<解説>

 上の三つの劫の図では、白2で黒1を取り返せない。


劫は、他への着手または着手放棄(パス)をした後に取り返せる。

白が他へ着手してから取り返す例    白2:パス
白がパスしてから取り返す例


 
第六条



第六条(投了)
 対局の途中で自らの負けを申し出て対局を終えることができる。 これを「投了」という。この対局の結果は相手方の「中押勝」となる。

<解説>
 「中押勝」 → ちゅうおしがち。



 
第七条



第七条(死活)
 取られると証明される石は「死に石」、死に石以外の石は「活き石」。

<解説と付則>
 ・ ’取られる’とは、最終的に相手方の帰属になることを意味する。
 ・ 石の死活の検証は想定着手によって行う。
 ・ 検証は対象石側が先着し、死活が判明した時点で終了とする。
 ・ 相手方の帰属になるのが一部分の場合でも、その石は死に石とする。


 囲碁は、石を取ったり取られたりの繰り返しにより多種多様の形が現れ、
 最終的に相手方の帰属になる石は死に石であり、その他は活き石である。

黒△の石は死に石。   黒1:パス
黒△が死に石の検証
 黒7には白8と取り上げ、
 黒△が死に石と判明し、
   検証終了。

  
図の全ての石は活き石。
黒□の7子が活き石の検証。
白2に黒3と受け、白の帰属に
ならないため、活き石と判明する。
   図の全ての石は活き石。
白○の2子が活き石の検証。
白1に黒2、白2子は黒の帰属
にならないため、活き石と判明する。


・ 死活検証中、手順が循環する場合は活き石とする。

図の左上隅の双方
の石は活き石。
黒○の石は活き石の検証。  黒3:パス、白4:パス
白6の後、同じ手順が循環するため、黒○は活き石。右下隅も同様。


・ ただし一方的にハマを損する循環は禁止とする。(死活例23参照) 



 
第八条



第八条(地)
 一方の活き石が囲んだ領域を「地」という。地の一空点を「一目」という。

<解説と付則>
 ・ 一方のみの活き石に囲まれ、中に同色の死に石と異色の活き石を
   いずれも含まないならば、その領域の空点及び死に石は地である。
 ・ ただし双方の活き石による劫の空点は地としない。(死活例26参照)


図の△の石は死に石。その他は活き石。
図の○の石は一時的に取られるが、最終的に
相手方の帰属にならないため、活き石である。
左上隅は白の活き石に囲まれているため、白地になる。
右上隅は黒の活き石に囲まれているため、黒地になる。
右下隅は双方の活き石に囲まれているため、どちらの地にもならない。



 
第九条



第九条(終局)
 両対局者が終わりと認め合った時は終局となる。パスが四回連続した時も終局となる。

<解説と付則>
 ・ 終局を拒否し、パスを含む循環手順を一方的に繰り返してはならない。


上の三つの図は黒Aと打ち、パスを含む循環手順を一方的に繰り返す例。

 



 
第十条



第十条(計算)
 終局後、地の中の相手方の死に石はそのまま取り上げ、ハマに加える。
その後ハマをもって相手方の地を埋め、双方の地の目数を比較して、その多い方を勝ちとする。同数の場合は引き分けとし、これを「持碁」という。
2、勝敗に関し、対局者に異議がある場合は、双方は対局の再現等により、勝敗を確認しなければならない。

<解説と付則>
 ・ 対局条件として、一方の地に加えられる所定の目数を「コミ」という。
   コミがある場合は、それを該当対局者の地に加算する。
 ・ ハマが相手方の地を上回る場合は上回ったハマを自分の地に加算する。


図の○と△の石は地の中の死に石であるため、
終局後はそのまま取り上げることができる。
結果:黒地11目、白地12目。白1目勝ちとなる。


※注: 一般に両対局者と立会人(審判)が勝敗を確認した後、この勝敗は変更できない。

 



 
第十一条



第十一条(無勝負)
 同一局面反復の状態により、双方が譲らない場合は無勝負とする。

<解説>
 同一局面反復の事例:三劫以上、循環劫、長生などがある。

三劫 循環劫 長生


※注: 無勝負になった際は原則は再対局を行う。ただし競技等の事情により、勝敗を確定させる必要がある場合は、ニギリ等によって勝敗を決めることが考えられる。



 
第十二条



第十二条(反則)
 一方が以上の規則に反した場合、終局前であればその時点で負けとなる。

<解説>
 終局前であれば、反則が判明した時点で負けとなる。



【関連規定】 (暫定)

1、対局中に石が移動した場合は、移動した石を元に戻して
  対局を続行する。元に戻せない場合は無勝負とする。

2、取り上げるべき石を取り上げない場合は、発見される次第取り上げる。
  取り上げによって、対局が続行できない場合は無勝負とする。

3、取り上げられない石を取り上げた場合は、その石を元に戻して
  対局を続行する。元に戻せない場合は該当対局者の負けとする。





※ 本試案は対局者の相互信頼の精神を推奨し、囲碁という簡素なルールで
  文化的価値の高い競技が、広く世界に普及することを切望してやまない。




死活例

III 死活確認例



死活例1

死活例1 「取らず三目」

a●●○○┬○
○●●○┼○○   
●○○○○┼┼  死活例1
●●●●┼┼┼  
├●┼●┼┼┼
●●●┼┼┼┼
隅の黒四子と白一子はともに「死に石」。

注:実戦では白aと黒四子を取る事が予想され、
最終的に白は約2目の利が得られる。



死活例2

死活例2

┌●○┬○●┬ 
●┼○┼○●┼  
○○○○●●┼  死活例2
●●●●┼┼┼  
├┼┼┼┼┼┼    
隅の黒二子と白八子はともに「活き石」。




死活例3

死活例3 「ハネゼキ」

●●●┬○●○┬ 
○○○○○●○┼ 
●●●●┼●○┼ 
○○○●●●○┼  死活例3
├●●●○○○┼ 
▲○○○○┼┼┼ 
○○┼┼┼┼┼┼ 
├┼┼┼┼┼┼┼ 
黒▲の一子は「死に石」。
その他の石は「活き石」。



死活例4

死活例4

┌●┬┬●●●○●┬    
●●○○○○○○●┼    
├○●●●●●●●┼   
├○●┼┼┼┼┼┼┼  
●○●┼┼┼┼┼┼┼    死活例4
●○●┼┼┼┼┼┼┼  
●○●┼┼┼┼┼┼┼  
○○●┼┼┼┼┼┼┼    
●●●┼┼┼┼┼┼┼  
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼   
図の全ての黒石は「活き石」。
上辺の白七子と左辺の白七子はともに「死に石」。



死活例5

死活例5

a○●●┬◎●┬●
●●○●┼◎●●●  死活例5
●●○●●◎●┼●
○○○○○●●●┼
├┼┼┼○┼┼┼┼
○○○○┼┼┼┼┼
隅の黒四子、白一子は「死に石」。
その隣の黒五子は「活き石」、白◎の三子は「死に石」。

注:白◎の三子は地の中の死に石であるため、
実戦では白はaと黒四子を取る事が予想され、
その部分は最終的に白1目の利が得られる。



死活例6 死活例6 長生がらみ
長生になる寸前の形であるが、白がaに手入れすると半目負け、
黒がaに打つと長生無勝負というケースで、ともに打たない場合である。
┌○a●┬○●┬○┬
●○○○●●○○┼○
●●●●●○┼┼○┼ 死活例6
○○○○○○○○○┼  
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼
隅の黒八子とaの隣の黒一子は「活き石」。
結論:白の手入れは必要。



死活例7−1

死活例7−1 「隅の曲り四目」

●●●┬○●┬  
├○○○○●┼
○○●●●●┼   死活例7−1  
●●●┼┼┼┼ 
├┼┼┼┼┼┼
隅の黒三子は「活き石」、白七子は「死に石」。



死活例7−2

死活例7−2 「隅の曲り四目」と「万年劫」の併存

●●●┬○●┬
├○○○○●┼
○○●●●●┼
●●┼●┼●┼
├●●●●┼┼   死活例7−2
○○○○○○┼
●●●●●○┼
●○○┼●○┼
○┴○┴●○┴
両図が併存している場合でも、左上隅の白七子は「死に石」。
「両劫」等の形との併存の場合も同じ。



死活例8

死活例8 「眼あり眼なし三劫」

┌┬┬┬┬┬   
○○┼┼┼┼   
●○┼┼┼┼  
├●○○○┼  
●●●●○┼   
○●┼●○┼    
├○●○●┼    死活例8 
○○○○●┼    
├○●●●┼    
○○●┼●┼    
●●●┼┼┼    
├┼┼┼┼┼   
黒八子と白十子はともに「活き石」。
注:実戦ではこのまま終局か、黒がコウを譲歩しない場合は白は無勝負を選ぶ事ができる。



死活例9

死活例9 劫関連の手入れ

●○a●○┬┬  
├●●●○┼┼  
●●○○○┼┼  死活例9
○○○┼┼┼┼  
├┼┼┼┼┼┼  
隅の黒七子、白一子はともに「活き石」。
結論:黒aの手入れは必要。



死活例10

死活例10 一手ヨセ劫手入れ不要

●○a┬●○┬  
├●●●●○┼  
●●○○○○┼   死活例10 
○○○┼┼┼┼  
├┼┼┼┼┼┼
隅の黒八子は「活き石」。白一子は「死に石」。
結論:黒aの手入れは不要。



死活例11

死活例11 「両劫に仮生一」

●●○┬○●○┬○
├●●○○●○○┤
●○┼○●●●●○    死活例11
○○○○●┼┼●●
●●●●●┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┤
右上隅の白五子は「死に石」。
左上隅の黒と白は「活き石」。



死活例12

死活例12「万年劫」

○┬○┬●○┬
●○○┼●○┼
●●●●●○┼   死活例12
○○○○○○┼
├┼┼┼┼┼┼
隅の黒と白はともに「活き石」。



死活例13

死活例13

●●┬●○●┬    
├○●┼○●┼   
○○○○○●┼   死活例13  
●●●●●●┼ 
├┼┼┼┼┼┼                    
隅の黒と白はともに「活き石」。



死活例14

死活例14

├┼┼┼┼┼
○○○┼┼┼
●●○┼┼┼
├●○┼┼┼
a●○┼┼┼
●●○┼┼┼
├●○┼┼┼  死活例14
○●○┼┼┼
├○●┼┼┼
○○●┼┼┼
├○●┼┼┼
○○●┼┼┼
●●●┼┼┼
└┴┴┴┴┴
左辺の白七子と黒八子はともに「活き石」。
結論:白aの放り込みは不要。



死活例15

死活例15

├┼┼┼┼┼┼
○○○○○○┼
○●●●●●┼
●┼┼┼┼●┼
├●┼┼┼●┼
○●┼┼┼●┼
├○●┼┼●┼  死活例15
○●●┼┼●┼    
├○●●●●┼
○○○○●┼┼
●○┼○●┼┼
●●●○●┴┴
隅の黒四子は「活き石」、白十一子は「死に石」。 



死活例16

死活例16

├┼┼┼┼┼┼┼┼
●●●┼┼┼┼┼┼
○○●┼┼┼┼┼┼
├○●●●┼┼┼┼
○○○○●●●○┼
●○┼○○○●○┼    死活例16
├●○●●●○○┼
●●●●┼●○┼┼
○○○●●●○┼┼
├○●○○○○┼┼
○○●●●●●┼┼
├○●┼┼┼┼┼┼
◎●┼┼┼┼┼┼┼
◎●●┼┼┼┼┼┼
└◎●┴┴┴┴┴┴
隅の白◎の三子は「死に石」。
左辺のその他の黒と白は「活き石」。



死活例17

死活例17

├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
●●●┼┼┼┼┼┼┼┼
○○●┼┼┼┼┼┼┼┼
├○●●●┼┼┼┼┼┼
○○○○●┼┼┼┼┼┼
●○┼○●○○○○┼┼    死活例17
├●○●○○●●○┼┼
●●●●●●┼●○┼┼
○○○●○●●●○┼┼
├○●○○○○○○●┼
●○●●●●●●●●┼
●○○○●●┼┼┼┼┼
●┴○┴◎●┴┴┴┴┴
下辺の白◎の一子は「死に石」。
左辺のその他の黒と白は「活き石」。



死活例18

死活例18

┌○┬●○●○┬┬┬
○●●●○●○○┼┼
├●○○○●●○○┼
●●○○┼○●●○┼
○○○┼○●┼●○┼    死活例18
●●○○●┼●●○┼
├●●○○●●○┼┼
├┼●●●○○○┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼
隅の黒七子は「死に石」。
その他の石は「活き石」。



死活例19

死活例19

●┬○┬○┬●○┬┬
●○○○●●●○┼┼
●○●●○┼●○┼┼
├○●○○●●○┼┼   死活例19
○○●●●●○○┼┼
●●○○○○○┼┼┼
├●●●┼┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼
白十二子は「活き石」。黒十七子は「死に石」。



死活例20

死活例20

●┬○┬○┬●○┬┬
●○○○●●●○┼┼
●○●●○○●○┼┼
├○●┼○○●○┼┼    死活例20
○○●●●●●○┼┼
●●○○○○○○┼┼
├●●●┼┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼
黒と白はともに「活き石」。



死活例21

死活例21

●┬○┬○┬●○┬┬┬
●○○○●●●○○┼┼
●○●●○○●●○┼┼
├○●┼○○○●○┼┼    死活例21
○○●●●●●●○┼┼
●●○○○○○○○┼┼
├●●●┼┼┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
黒十九子は「活き石」、白十四子は「死に石」。



死活例22

死活例22

○┬●┬○┬○┬○●┬┬
○○●●●○○○○●┼┼
●●●○○●●●●●┼┼    死活例22
○○○○┼┼┼┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
黒七子は「活き石」。白十子は「死に石」。
黒は白三子を打ち上げる手入れ不要。



死活例23

死活例23

┌◎┬○○●┬◎●┬┬
◎●◎┼○●┼◎●●┼
├●●○○●●●○●┼
●┼●●●○○○○●┼   死活例23
◎◎●○○○┼┼┼┼┼
◎●●○┼○┼┼┼┼┼
●●○┼○┼┼┼┼┼┼
○○○○○┼┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
白◎の8子は死に石。
その他の石は「活き石」。
左上隅の双方の地は:黒地13目、白地0目。

┌◎┬◎◎●┬●┼┬┬
◎●◎┼◎●●●┼┼┼
├●●◎◎●┼●┼┼┼
●┼●●●○●●┼┼┼   
◎◎●○○○┼┼┼┼┼  死活例23--参考図(右側にセキを含まず、単純な局部の場合)
◎●●○┼○┼┼┼┼┼
●●○┼○┼┼┼┼┼┼
○○○○○┼┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
白◎の11子は死に石。
その他の石は「活き石」。

注: 「一方的にハマを損する循環は禁止とする」の規定により、
白は「3子を取られては2子を取り返す」の循環を繰り返す事はできず、
上記参考図のような単純な局部の場合は、関連の白群は死に石となる。



死活例24

死活例24 「地」と二段劫

┌△●●┬┬●○┬┬
○●●┼●●●○┼┼
├○●●○○○○┼┼
○○┼●○┼┼┼┼┼
├○●●○┼┼┼┼┼   死活例24
○○○○●┼┼┼┼┼
├○●●●┼┼┼┼┼
○○●┼┼┼┼┼┼┼
●●●┼┼┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼
白△の一子は「死に石」。
その他の石は「活き石」。
左上隅の双方の地は:黒地3目、白地3目。



死活例25

死活例25 「両劫ゼキ」

┌●┬●○●┬
●●●○○●┼
○●○┼○●┼
├○○○○●┼   死活例25
○○●●●●┼
●●●┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼
黒六子と白十二子はともに「活き石」。



死活例26

死活例26 「双方の活き石による劫の空点」

┌●●┬●△a
●┼●●●●○
●●○○○○○
○○○●●●●   死活例26
├○○●┼●┤
○○●●○○●
└○●○┴○○
白△は活き石だが、
【双方の活き石による劫の空点は地としない】の規定により、
空点aは地ではない。
盤上の双方の地:黒地3目、白地2目。 結果:黒1目勝ち。






試案の概要  IV 分かりやすい日本囲碁規約(試案)の概要


1 試案の基本方針

 (1)伝統の碁の計算方法と考え方を遵守。
 (2)時代に合わない慣習を無くし、ルールの簡明さを重視。
 (3)世界に通用する囲碁ルールの追求。


2 試案の効果

 (1)ルールが分かりやすくなり、囲碁の普及に役立つ。
 (2)基本ルールに基づいた論理性により死活判定は明確になる。
 (3)世界の囲碁ルールへの展望や歩み寄りの姿勢が評価される。


3 現在(日本囲碁規約1989)と変わる主な点

 (1)セキ石の囲んだ空点。
   ・ 現規約はセキ石の囲んだ空点は地として計算しない。
   ・ 本試案はセキ石を特に意識せず、活き石の囲んだ空点は地とする。

 "セキ石の囲んだ空点は計算しない"の慣習は、古くは「切り賃」ルールとセットになっていた計算用ルールと言われ、 「切り賃」ルールが廃棄された際に一緒に廃棄されずに慣習として現在に至った。そのため、活き石の中のセキ石とそうでない石を区別する必要が生じ、 日本ルールの難解さはそれが一因と言われる。またセキの地を計算しない一方、セキの部分で発生するハマは地として計算するため、一貫性を欠く論理構造になり、時として不自然さが現れる。

1図
┌●●┬●○┬●┐
●○○●┼○○○●
├●○○○○○●┤
●┼●○○○●┼●
○●┼●○●┼●○
○○●●○●●○○
├○●●○●●○┤
○○●●○●●○○
└○●┴●┴●○┘  
上図は黒の囲んだ空点が多く、碁のイメージからすれば黒の勝ちそうな局面。
現規約の判定: 黒地0目、白地4目。結果白4目勝ち。
(碁のイメージからすれば意外な結果と言える)

本試案の判定: 黒地11目、白地4目。結果黒7目勝ち。
(一般の碁のイメージに合致する。欧米/中国ルールの判定結果もこれと同じ)
2図
┌┬●┬●○┬┬┐
├┼●△●○┼┼┤
●●●△●○┼┼┤
○○●●●○┼┼┤
├○○○○○○○┤
├┼┼○●●●○○
├┼┼○●◇●●●
├┼┼○●◇●┼○
└┴┴○●┴●○┘
現規約の判定:
左上の白△2子は死に石、終局後はそのまま取り上げられ、その部分は黒地5目。
右下の白◇2子も死に石だが、しかし終局後はそのまま取り上げられない。
従って黒は終局前に◇の死に石を取り上げる必要があり、ハマを獲得することによって、最終的にその部分の黒地は3目となる。

本試案の判定: 左上隅と右下隅の白の死に石はいずれも終局後そのまま取り上げられ、両方ともその部分は黒地5目。 (死に石を一々取り上げる必要はない、という碁の常識に合致する。欧米/中国ルールも同じ)

3図
┌┬●┬●○┬┬┐
├┼●A●○┼┼┤
●●●●○○┼┼┤
○○○○○┼┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┤
├┼┼┼○○○○○
├┼┼○○●●●●
├┼┼○●a●┼○
└┴┴○●┴●○┘
現規約は、左上隅の白Aはコウ立てに使える、しかし右下隅の白aはハマ1個を黒に獲得されるため、損なコウ立てになる。

本試案は、白aのコウ立てをしても損しない。
(コウ立てにおいての碁の感覚に合致する。欧米/中国ルールも同じ)


 (2)死活判定のルール
   ・ 現規約は特別なコウルール及び死活概念を使用して判定する。
    (判定困難なケースや常識に反する不具合等が報告された)
   ・ 本試案は純粋な部分死活論を使用し、明確に死活を判定する。

※注:本案の死活判定はきわめて単純であるが、下記の死活例23について、
なぜ白◎の8子は死に石、白○の5子は活き石なのか?との質疑があった。
┌◎┬○○●┬◎●┬┬
◎●◎┼○●┼◎●●┼
├●●○○●●●○●┼
●┼●●●○○○○●┼   死活例23
◎◎●○○○┼┼┼┼┼
◎●●○┼○┼┼┼┼┼
●●○┼○┼┼┼┼┼┼
○○○○○┼┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
死活判定の仕方は、一単位の石ずつ、その石だけの生死を検証する。
この基本事項は現規約も本試案も同じである。
従って、上図は外囲の石を除いて合計9単位の石があり、正式には9回の死活判定が行われる。 それらの検証を全部行えば、おのずと上記の結果が得られる。


 (3)地の定義
   ・ 現規約は拡張された「駄目」の概念等を用いて、地を定義する。
    (駄目の有無によって地が決定されるため、不具合等が報告された)
   ・ 本試案は「活き石の囲んだ領域」の概念を用いて、地を定義する。

 囲碁は陣取りゲームであり、対局者の活き石が囲んだ所は「地」である事が
碁の基本的な考え方と思われる。欧米や中国等の国際碁界も同じ考え方である。
死活例24の判定に関連して、下図のAの「欠け目」について、 本試案は地として計算する事がよく指摘され、受け入れられないものとされる。
┌○●●┬┬┬┬┐
○●●┼●●●●●
A○●●○○○○○
○○●●○┼○┼┤
├○●●○○○○○ 1図
○○●○○●●●●
├○○●○●┼●○
○○●●●●○○┤
●●●●●┴●○○
死活例24の説明文で省略されていたが、上図のAが白地と計算される場合、
右下隅のような両コウの形が必須条件である。(左上隅のコウを支える条件)
また黒は形勢判断次第で常に三コウ無勝負を選ぶ事が可能等を念頭に入れれば、 実戦でAの空点が白地として計算される事はきわめて稀である。

しかしながら上記よりも重要な事がある。
それは「欠け目」とは何か? なぜ「欠け目」は地として計算しないか?
等の疑問に対して、解答は困難と思われる。
┌○○○┬○●●┐
○●●○○○●┼●
A○●●●●●●●
○○●○○○○○○ 2図
├○●○●●●●○
○○●○●●┼●○
├○●○●┼●●○
○○●○●●●○B
●●●○○○○C○
2図のA及び右下隅のB、Cの空点は全部「欠け目」である。
しかし上記の三つの空点は、いずれも問題なく白地として計算される。
では1図のAはどうして白地として計算しないか?
棋理の観点からすれば、白の左上隅のコウは実戦で支えられるため、
1図のAと2図のAは同等な状態と考えられる。

"欠け目は地ではない"の固定観念は、
おそらく古来の終局の慣習に由来すると推測される。
┌●●┬●┬●┬○
○●●┼●┼●○┤
├○●●●●●●○
○○○○○○A○○ 3図
├○┼○┼○○○┤
├○○●○●○┼┤
├○●●┼●B○○
○●●┼●●●●○
└●┴●┴●┴○┘
上図は前世紀までよくある終局例。
その場合、四隅と中央の白の「欠け目」は地とみなされず、
黒地7目、白地6目、結果:黒1目勝ち。
昔は上図のままで終局しても、盤中の「欠け目」は地ではない、
という思考習慣が形成されていた。
しかしながら近代になって、終局の方式と考え方が大きく変わった。
黒は四隅及び中央の白石を逐一アタリして、 双方の地が確認できるように必要な手を全部打てから終局する、という方式にルールが変わっていた。
従って現在の碁の終局は、これ以上打つと損な局面(一般でいう駄目を全部詰め終えた局面) まで打てから終局になるため、3図のような地ではない「欠け目」は(殆ど)存在しないのである。

なお3図のままで"終局"した場合、本試案ではそれらの欠け目は白が囲んだ陣地として、 黒地7目、白地11目という結果で黒が負けになるが、終局前に黒はむろん逐一アタリして白の欠け目を消せば、 問題無く黒は1目勝つ事になる。
因みに現行規約の判定では、盤中の石は全部「セキ石」になり、黒地も白地も0目である。 黒が全部のアタリを打っても黒地は0目であるが、 その上さらにAとBの純粋な駄目を打って、はじめて黒地は7目と計算される。

碁は囲んだ所が地になる...と入門教室等でよく説明されるが、 しかし実際は「セキ」、「欠け目」等の古来の固定観念によって、 囲んだにもかかわらず地にならない事が起こり、 囲碁の普及にとっては良い事ではないと思われる。
本試案は「セキ」、「欠け目」、「駄目」等の難しい知識は一切必要なく、
純粋に活き石の囲んだ所を地とする。またそれは国際的な碁の考え方でもある。 因みに現行規約の「駄目」を用いて「地」を定義する考え方は、
囲碁の国際通念と異なり、日本伝統の「地」の考え方とも異なる。


注1: 20世紀初期の頃、下図の白△のコウ取りで終局になった場合、
「AとBは白地である」と当時の権威である本因坊秀哉が判定し、 そしてそれが1949年までの日本棋院の内規であった、と文献等で伝えられている。
┌●△A○┬┬┬┬○┬
├●●○○B┼┼┼○┼
├┼┼●●○○○○┼┼ 4図
●●●┼┼●●┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
従って、「本コウの手入れ」、「欠け目と地」、「判例」等の諸固定観念は、
1949年の旧規約から形成されたものと思われる。


注2: 1図のAの空点を地にすると、碁の考え方は変わるとの意見が聞かれるが、 歴史的原因により冗漫になった日本ルールが原点に戻る事があっても、 碁の考え方は変わらないと思われる。 碁の国際化が進むにつれ、欧米、中国等で碁の競技や交流が頻繁に行われている。 終局の計算等で注意すべき点を知る必要があるが、わざわざ碁の考え方を変えて打つ話を聞かない。


 (4)終局規定
   ・ 現規約は両パスの後、死活と地の確認等の過程を経て終局となる。
    (実際の対局ではパスや確認等は殆ど行われず、実情と乖離していた)
   ・ 本試案は終局規定を簡素化し、実情に合う終局規定を目指した。

本試案は「合意」と「パス」の組み合わせによって終局を規定している。
殆どの対局は、両対局者の合意ですんなり終局すると思われるが、
稀に一方が合意しない場合は、両者の「パス」によって終局する事が出来る。
なおその際は、仮に一方が"終わりですか"等の発言をしても、もう一方は無回答のままで良い。 なぜならば発言者の時計が動いているため、いずれは「パス」と言って時計を押すので、 その「パス」を待てば良い。 その後両者が打つ場合なら打つ、打たない場合なら「パス」、そのようにして最後は終局となる。

現行規約は「パス」だけを使用して終局を規定しているが、 1989年以来20年以上の歳月を過ぎても、「パス」で終局する事はおろか、 「パス」を経験した事がある棋士さえも稀である。


注1:終局に関して、碁を打つ大多数の人は「パス」を使わずに、 お互いに頷き合って終局するような手軽さ、心地良さを好むと思われる。


注2:中国ルールの終局規定も「合意」と「パス」の二本立てで出来ているが、 「合意」と「パス」の組み合わせは近年の終局規定の定石と考えられる。


注3:対局者が盤上の事で疑問がある時は、審判(立会人)に確認するのが常である。 現行規約の「対局停止」、そして競技の相手と盤中の石の死活と地について確認する等は、 実際は殆ど行われず、碁の慣わしではないと思われる。


 (5)【死活確認例】で判定が変わる図例
┌●┬┬●●●○●┬   
●●○○○○○○●┼    
├○●●●●●●●┼    
├○●┼┼┼┼┼┼┼    
●○●┼┼┼┼┼┼┼ 死活例4  
●○●┼┼┼┼┼┼┼    
●○●┼┼┼┼┼┼┼    
○○●┼┼┼┼┼┼┼    
●●●┼┼┼┼┼┼┼    
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼
現規約: 黒白ともに活き石で、第八条によりセキ石。
本試案: 黒は全部活き石。上辺と左辺の白七子はともに死に石。


┌○■■┬○●┬
●●○■┼○●┼
●●○■■○●┼ 死活例5
○○○○○●●┼
├┼┼┼┼┼┼┼
現規約: 黒九子、白四子はともに活き石で、第八条によりセキ石。
本試案: 白四子と隅の黒四子は死に石。黒■の五子は活き石。
注:両者の実戦の最終結果は同じ。(白から打て、白1目の利あり)


┌○a●┬○●┬┬○┬
●○○○●●○○○○┼
●●●●●○┼┼┼┼┼  死活例6
○○○○○○○○○┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
現規約: 黒十子は死に石、白は全部活き石。結論:白手入れ不要。
本試案: 黒九子は活き石、白は全部活き石。結論:白手入れ要。

 
┌┬┬┬┬┬┬ 
○○┼┼┼┼┼    
●○┼┼┼┼┼  
├●○○○┼┼  
●●●●○┼┼    
○●┼●○┼┼ 死活例8「眼あり眼なし三劫」 
├○●○●┼┼    
○○○○●┼┼    
├○●●●┼┼    
○○●┼┼┼┼   
●●●┼┼┼┼   
├┼┼┼┼┼┼
現規約: 黒八子は死に石、白十子は活き石。
本試案: 黒九子は活き石、白十子は活き石。


├┼┼┼┼┼
○○○┼┼┼
●●○┼┼┼
├●○┼┼┼
a●○┼┼┼
●●○┼┼┼  死活例14
├●○┼┼┼
○●○┼┼┼
├○●┼┼┼
○○●┼┼┼
├○●┼┼┼
○○●┼┼┼
●●●┼┼┼
└┴┴┴┴┴
現規約: 黒八子は活き石、白七子は死に石。結論:白aの放り込みは必要。
本試案: 黒八子は活き石、白七子は活き石。結論:白aの放り込みは不要。


├┼┼┼┼┼┼┼┼
●●●┼┼┼┼┼┼
○○●┼┼┼┼┼┼
├○●●●┼┼┼┼
○○○○●●●○┼
●○┼○○○●○┼  
├●○●●●○○┼  死活例16
●●●●┼●○┼┼
○○○●●●○┼┼
├○●○○○○┼┼
○○●●●●●┼┼
├○●┼┼┼┼┼┼
◎●┼┼┼┼┼┼┼
◎●●┼┼┼┼┼┼
└◎●┴┴┴┴┴┴
現規約: 左辺白二十二子は死に石。その他の石は活き石。
本試案: 隅の白◎の三子は死に石。その他の石は活き石。


├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
●●●┼┼┼┼┼┼┼┼
○○●┼┼┼┼┼┼┼┼
├○●●●┼┼┼┼┼┼
○○○○●┼┼┼┼┼┼
●○┼○●○○○○┼┼
├●○●○○●●○┼┼  死活例17
●●●●●●┼●○┼┼
○○○●○●●●○┼┼
├○●○○○○○○●┼
●○●●●●●●●●┼
●○○○●●┼┼┼┼┼
●┴○┴◎●┴┴┴┴┴
現規約: 左辺白二十子は全部死に石。その他の石は活き石。
本試案: 下辺の白◎の一子は死に石。その他の石は活き石。


┌○┬●○●○┬┬┬
○●●●○●○○┼┼
├●○○○●●○○┼
●●○○┼○●●○┼
○○○┼○●┼●○┼ 死活例18
●●○○●┼●●○┼
├●●○○●●○┼┼
├┼●●●○○○┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼
現規約:  黒二十子は死に石。その他の石は活き石。
本試案: 隅の黒七子は死に石。その他の石は活き石。


┌◎┬○○●┬◎●┬┬
◎●◎┼○●┼◎●●┼
├●●○○●●●○●┼
●┼●●●○○○○●┼   死活例23
◎◎●○○○┼┼┼┼┼
◎●●○┼○┼┼┼┼┼
●●○┼○┼┼┼┼┼┼
○○○○○┼┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼┼
現規約: 白十三子は全部死に石。その他の石は活き石。
本試案: 白◎の八子は死に石。その他の石は活き石。
左上隅の双方の地は: 黒地13目、白地0目。


┌△●●┬┬●○┬┬
○●●┼●●●○┼┼
├○●●○○○○┼┼
○○┼●○┼┼┼┼┼
├○●●○┼┼┼┼┼   死活例24(地と二段劫)
○○○○●┼┼┼┼┼
├○●●●┼┼┼┼┼
○○●┼┼┼┼┼┼┼
●●●┼┼┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼┼┼
現規約: 白△の一子は死に石。その他の石は活き石。黒地0目、白地0目。
本試案: 白△の一子は死に石。その他の石は活き石。黒地3目、白地3目。




<付記> 現規約(日本囲碁規約1989)の問題点

  囲碁の国際化に伴って、1949年の日本最初の成文化囲碁ルール「日本棋院囲碁規約」を改定する事により、 1989年4月に現規約が制定された。 それまでの「判例」による死活判定が廃止され、 石の死活を一定の原則に従って判定すること等、大きな進歩を遂げた。 以来20年以上の歳月が経ち、その間の施行及び研究の積み重ねにより、色んな問題点が報告された。

 (1) 手入れの要らない形において、手入れが必要になる規約の不具合。

下記各図は常識では手入れの要らない形だが、
現規約では黒の手入れが必要になる図例。
1図
┌○●○┬●○┬
├●┼●●●○┼
●●●●○○○┼
○○○○○┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼
2図
┌●○┬┬●┬┬
●┼●○●┼●┼
●●○○●●●┼
├●●●○○┼┼
●●○○┼┼┼┼
○○┼┼○┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼
3図
┌┬○○●┬●┬
●●●●○●●┼
○○○○○●┼┼
●○┼○●●┼┼
├●○●●┼┼┼
●●●●┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼
4図
┌┬●○┬○●┬
●●┼●○○●┼
├●●○○●●┼
●○○○●●┼┼
○○●●●┼┼┼
●●●┼┼┼┼┼
├┼┼┼┼┼┼┼
5図
●┬●○●○┬
├●○┼●○┼
●┼●┼●○┼
○●●●●○┼
○○○○○○┼
├┼┼┼┼┼┼

 (2) 死活判定が明確でない場合がある。

下記の図の白△の死活判定がはっきりせず、
活き・死にのどちらの判定も可能と思われる。
1図
┏┯┯●○●○┯○  
┠┼┼●○●●○●
┠┼┼●○●┼●┨
┠┼┼●○●○○●
●●●●○●●●●
○○○○○○○○○
┠○●●●●●○┨
┠○●┼●○○●●
┗○○●△┷○○┛
2図
┏┯┯┯┯●○●┓
┠┼┼○┼○┼△△
┠┼○┼┼○○●●
┠┼┼┼┼○●●┨
○○○○○●●┼┨
●●●●○●┼┼┨
┠●┼●○●┼┼┨ 
●○●●○●┼┼┨
○┷○●○●┷┷┛


 (3) 地に関連する意外な判定

規約第8条により、地は「駄目」の有無によって決定される。
1図の上辺全体はセキの状態だが、しかし左上隅の白4子は「駄目」が無いため、白1目の地がある。 (白4子はセキ石のはずだが、しかしそれはセキ石ではないという矛盾な判定になる)
1図
┌○●●┬○●●┐
○○○●┼○●○○
●●●●○○○○●
○○○○○●●●●
●●●●●●┼┼┤
├┼┼┼┼┼┼┼┤

2図: 通常の地の認識と異なる判定
┌○○●┬┐
├○○●┼┤
├○┼●┼┤ 2図
├○┼●┼┤
├○●●┼┤
└○●●┴┘
現規約: 黒地0目、白地0目、結果:持碁。
本試案及びその他の囲碁ルール: 黒地12目、白地6目。結果:黒6目勝ち。


3図: 黒番、コミ5目半。
この局面では黒がパスをするのが最善。普通に「駄目」を打つと黒負けになる。 黒パスの後、白が普通に駄目を打つと、白負けになるため、白もパスをする。 そして3図のまま終局。
3図
┌┬○┬┬○●┬●
○○○○○○●●○
●●●●○○○●┤
├┼┼┼●○┼●┤
├●┼┼●○○●●
●┼●●●●○○●
●●○○○●●○○
○○┼┼○●┼●○
└┴○○○●●●○
現規約の判定:上辺一帯はセキ状態。黒地9目、白地4目。結果:白半目勝ち。
本試案の判定:黒地14目、白地8目。結果:黒半目勝ち。(欧米/中国ルールも同じ)

注: 勝敗結果の違いはともかく、「駄目」があるため上辺一帯の黒と白の地は0目!という現規約の判定は、碁の常識からすれば意外と思われる。


 (4)規約や解説文を熟読しても、はっきりと分からない重要事項がある。

1、パスは自由に行えるか? <結論:自由に行える>

2、対局再開時、対局停止局面のコウを取り返せるか?<結論:取り返せる>

3、規約第7条の「石」と第8条の「石」は同じ意味か? <結論:違う意味。第7条の「石」は石連、第8条の「石」は石群を意味する>

4、規約第8条の「地」と第10条の「地」は同じ意味か? <結論:違う意味。第8条の「地」は空点、第10条の「地」は死石と空点を含む領域を意味する>

5、自分は終局に同意するが、相手は終局に同意せずかつ対局再開も要求しない場合はどうなる? <結論:自分から対局再開を要請し、相手に先着させなければならない。さもなくば両負けになる>

6、対局の再開が延々と繰り返される場合はどうなる? <結論:不明(規定なし)>

7、同一局面反復の状態を生じた場合、一方が無勝負に同意しない場合はどうなる? <結論:不明(規定なし)>

8、終局時、両対局者が合意した活き石に対し、立会人(審判)が規約では死に石と指摘した。その石は? <結論:その石は活き石。(両対局者の合意が優先)>

9、両対局者が間違った勝敗結果を確認した。立会人(審判)が直ちに正しい勝敗結果を指摘した。結果はどうなる? <結論:間違った勝敗結果になる。(両対局者が確認した勝敗結果は、例え間違いがあっても変更できない)>

10、終局後の整地の時、対局中の反則が発見された場合はどうなる? <結論:該当対局者の反則負けになる。(終局後でも反則負けは適用される)>


 (5) 囲碁の常識からすれば、意外な判定結果が多くある。

以下は級位者の簡単な終局図を例とする。
┌┬┬▲○○┐
├┼┼┼●○○
├●┼●●○┤ 
├┼●○○○○ 1図
├┼●●○●○
├┼┼┼●●●
└┴┴┴┴┴┘
現規約の判定:黒地0目 、白地2目。結果白2目勝ち。
(▲は死石のため黒地は0目)
本試案の判定:黒地24目、白地2目。結果黒22目勝ち。
(全局の石は活き石。その他のルールも同じ判定)

注: 黒は多くの地を囲んだが、しかし現規約の判定では黒地は0目!


┌┬┬●○○○●●
├┼┼●○●●┼┤
●●●●○●┼●┤
○○○○○○●┼┤
○○○┼○○○●● 2図
○●●○○┼○○○
●●┼●○○○●●
├┼┼●○●●●┤
└┴┴●○●┴┴┘
現規約の判定:黒地0目 、白地81目。結果白81目勝ち。(全局の黒は死に石)
本試案の判定:黒地23目、白地2目。 結果黒21目勝ち。(全局の石は活き石)

注: 黒の景気の良さそうな終局図だが、現規約では盤中の黒石は全滅!


以上で見られたように意外な判定は色々あるが、 そのような判定がそのまま対局結果にならないように、現規約では終局の前に、
「双方が石の死活及び地を確認し、合意することにより終局となる。」
という規定によって、トラブル等を回避する仕組みを備えている。
しかしながらその仕組みに頼るルールの手薄さは否めず、 常識に合致するように判定する事がルールの正しい姿と思われる。


 (6) 疑義のある記述や表現

1、規約第一条: 【囲碁は、「地」の多少を争うことを目的として・・・】
  上記条文は囲碁を説明する際の慣用表現として通常は問題ないが、
  「地」が第八条に定義されている規約の中では不正確な記述になる。

1図: 黒ハマ6、白ハマ0
┌┬●●○○
├┼●○┼┤
├┼●○○○
├┼●○┼○
├●○┼┼○
└●○○○┘
現規約の「地」の定義に従えば、上図は黒:10目、白:6目。結果:黒4目勝ち。 しかし実際の正しい結果は、黒:10目、白:12目。結果:黒2目負け。 「地」を多く囲んでも負ける可能性があるため、囲碁は必ずしも「地」の多少を争うことが目的ではないと分かる。

※注:韓国ルールの条文も同様な問題があったが、近年賢明に修正された。

【囲碁は...両方が占めた地とアゲハマの多さで勝敗を決める競技である。】


2、規約第六条: 【・・・次の着手でその劫を取り返すことはできない。】
  上記条文ではパスをした後コウを取り返せるかどうかはっきりしない。
  下記の表現が適切と思われる。
【・・・次の手番でその劫を取り返すことはできない。】


3、規約第八条: 【一方のみの活き石で囲んだ空点を「目」といい・・・】
  上記条文は「目」についての定義だが、逐条解説を含め、関連の記述が
  簡略過ぎて、色んな状態の空点を明確に判別できない。
  例えば下図の盤上の各空点が「目」かどうかは判別困難。  
┌○●┬┬●┐
○○○○┼●●
●●●○○○○
├○●○●●●
├○●○●○┤
●○●○●┼○
└●●○●┴○
該当条文、或いは逐条解説文等に下記のような記述があれば、ルールの意味が明確に示され、全ての空点が容易に判別できると思われる。
【一方のみの活き石に囲まれ、かつ同色の死に石と異色の活き石を含まない領域の空点を「目」といい・・・】


4、死活確認例23の解説文:
  【第七条第1、2項及び第一条の碁の目的により、黒は「活き石」...】
上記は死活判定において"第一条の碁の目的"の関連を示唆するが、 しかしそのため明確であるべき死活判定のルールが曖昧になり、好ましくない記述と思われる。 第七条の逐条解説等に直接その規定を明記することが適切と思われる。
【一方的にハマを損する循環は禁止とする。】


5、囲碁の基本用語が通常と違う意味で使用される
  囲碁の基本用語である「セキ」、「駄目」等が規約の中では通常と違う意味で使用されるため、 規約の理解や解釈の際に混乱を招き、好ましい事ではないと思われる。


 (7) 死活判定時に両コウが絡む場合の重要な説明が無い。そのため、
   死活確認例の中に解説された通りの結果を再現できない図が複数ある。


現規約の死活確認例16 解説: 隅の白十子は「死に石」で、上の白十二子も「セキ崩れ」で「死に石」。
├┼┼┼┼┼┼┼┼
●●●┼┼┼┼┼┼
○○●┼┼┼┼┼┼
├○●●●┼┼┼┼
○○○○●●●○┼
●○┼○○○●○┼
├●○●●●○○┼ 死活例16
●●●●┼●○┼┼
○○○●●●○┼┼
├○●○○○○┼┼
○○●●●●●┼┼
├○●┼┼┼┼┼┼
○●┼┼┼┼┼┼┼
○●●┼┼┼┼┼┼
└○●┴┴┴┴┴┴
左辺の白22子は全部「死に石」と解説されていたが、 しかし規約第7条の規定に従って検証しても、それらの白石は「死に石」という結果は得られない。

※ 死活確認例17、18等についても同様。


○ 現規約はその他に、「実情に合わない終局規定」及び「難しい条文」等の問題点があり、 将来的には実情を反映した、分かりやすい規約が望まれる。





<後記>
  現代の碁は、時間制、コミ、国際戦、ネット対局...等、時代と共に多くの変遷がなされ、 昔の碁から徐々に進化して来たものである。その中でルールに関連する考え方や慣習も流動的なもので、 守った方がいいものは守られ、改善した方がいいものが改善されるのは自然な流れであり、ルールの進歩である。
本案の一番高いハードルは、「セキの地は計算しない」という長年の慣習から脱する事であるが、 その効果によってルールは非常に簡単明瞭になるため、 国際化と共に碁の普及と発展に役立てれば幸いである。

※ 2012年現在、日本と韓国以外の囲碁ルールはセキ石を特に区別する事なく、 純粋に活き石の囲んだ空点が計算される。日本ルールがその考え方に切り換える事ができれば、 世界の国々との囲碁交流にプラスするだけでなく、ルールの理念に磨きが掛かり、 日本の碁の一つの気運転換になると筆者は思う。





関連リンク: 
【囲碁ルールの研究】